研究概要 |
本年度の研究実施状況としては、第一に、国会図書館等で戦前の楽器メーカーが発行していた雑誌や教則本および、諸外国の楽器製造技術や音楽教育に関する文献の収集を行ったほか、全国各地で、戦前の旧制中学校・高等女学校によって発行されていた校友会雑誌および学校一覧や学校史、府県立図書館での地方新聞の収集を行った。 第二に、上記で収集した史料の分析および、近現代史にかかわる文献の読解を通して、以下のような研究成果を得た。まず、ハーモニカなどの安価な楽器や蓄音機が普及する時期の前史として、1900年代から1910年代における旧制中学校の音楽教育について、東京府立第三中学校の学友会音楽部の事例を中心に検討した。唱歌教員を置いていたごく一部の中学校では、1900年頃から校友会に音楽部が創設されていたこと、そこでは唱歌教員の指導のもと, 歌唱のほかに器楽など, 唱歌科の枠を超えた生徒による多様な音楽活動が行われていたことが明らかになった。次に、日本楽器製造株式会社とトンボ・ハーモニカ製作所によるハーモニカの普及活動および、山梨県立甲府中学校の校友会音楽部の事例を手掛かりとしながら、1920年代のハーモニカの普及とその背景にあった楽器メーカーの動き、そして、それらと旧制中学校の音楽活動とのかかわりについて検討した。これまで唱歌教育を中心として検討が行われてきた学校音楽教育の歴史を、生徒たちの活動および当時の産業・文化との関連から捉え直すことで、演奏技術や表現方法に対する生徒自身の工夫や、ハーモニカ音楽を媒介とした学校・地域間の交流のように、近代国家と学校制度の枠組みだけでは捉えきれない側面が数多く存在していたことが明らかになった。第三に、研究対象である戦前における校友会の部の活動について、よりマクロな視点から捉えるために、1920年代の中等教育の課外活動に関する議論について検討した。
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