研究概要 |
本研究は, 甲殻類幼生, とくにイセエビ・セミエビ類のフィロゾーマ幼生が最も効率的に成長・生残し得る餌の性質を明らかにしようとするものである。フィロゾーマ幼生は天然海域においてゼラチン質動物プランクトンを食べている可能性が高いので, ゼラチン質動物プランクトンの基本性質と, ゼラチン質動物プランクトンを与えた場合のフィロゾーマ幼生の摂餌生態を明らかにすることを目指している。 オオバウチワエビのフィロゾーマ幼生は様々な種類のクラゲを食べ, 従来餌として利用されてきたアサリなどに比べて効率的な成長・生残を示すことがわかっていた。フィロゾーマ幼生がより効率的に成長・生残できる栄養条件を明らかにするために, ミズクラゲあるいはアカクラゲのどちらか一方を与えて飼育したところ, ミズクラゲを与えられた幼生は着底・変態し, 稚エビに脱皮したのに対し, アカクラゲを与えられた幼生は発育の後期に急に蜷死するようになり, 着底・変態に失敗した。餌として用いたクラゲ2種の性質の違いを明らかにするために, 両種の生化学的組成を調べた結果, タンパク質や脂質などの主要栄養成分に大きな違いは認められなかった。 オオバウチワエビのフィロゾーマ幼生はクラゲだけを食べて成長し, 変態・着底を経て稚エビに脱皮することが昨年度までに分かっていたが, 今年度は新たにウチワエビについても同様の結果が得られた。ウチワエビ類のフィロゾーマ幼生がミズクラゲを摂餌する場合, その飽食量は発育段階が進むにつれて増大した。とくに後期幼生では, 一日あたりのミズクラゲ飽食量は幼生湿重量の約5-10倍であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により, クラゲの種によってはその専食がフィロゾーマ幼生の成長・生残を妨害する可能性があることが分かった。主要栄養成分に違いがなかったクラゲ2種について, 今後, 微量栄養成分などの相違を明らかにし, フィロゾーマ幼生の成長・生残との関連を調べる。
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