慢性骨髄性白血病はその原因遺伝子であるBCR-ABLが転写因子IRF8の発現を抑制することで樹状細胞分化を阻害する。従ってこの抑制経路を阻害すれば、樹状細胞分化が回復し、それにより失われていた抗腫瘍免疫応答が復活すると予測される。そこでBCR-ABLがIRF8の発現を抑制する機構を明らかにするため、さまざまな種類のヒストン修飾のChIP-seq解析を行い、候補分子を複数同定した。それらの分子の関与を検討した結果、C/EBPbetaにIRF8の発現抑制能があることが示された。次に、C/EBPbeta欠損マウスを用いた慢性骨髄性白血病マウスモデルの解析を行ったところ、C/EBPbeta欠損マウスではBCR-ABLによる樹状細胞分化の抑制が一部解除され、樹状細胞数が回復することが示された。また、マイクロアレイおよびChIP-seqデータの再解析から、BCR-ABLが様々な免疫抑制細胞分子の発現を誘導していること、さらにそれらの分子の遺伝子座近傍に新規エンハンサーを形成していることなどが示された。また、その中には免疫チェックポイント療法において標的となるような分子も含まれていた。C/EBPbetaの強制発現はこれらの分子の発現を誘導することから、C/EBPbetaの阻害は樹状細胞の分化の回復(アクセルの回復)と免疫抑制分子の発現上昇の阻害(ブレーキの解除)という二つの効果を持つ、新たな観点の慢性骨髄性白血病治療法となる可能性が示された。これまでの慢性骨髄性白血病モデルは免疫非存在下での解析であったため、免疫の影響を十分に評価できなかった。現在、免疫残存CMLモデルを構築し、より患者に近い状態での解析を行う準備を行っている。
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