江戸・東京の大芝居と上方の芝居、小芝居といった多様な歌舞伎の形態の相互関係について明らかにすることを目指して研究を行った。研究の根幹となるのは上演台本の調査であるが、本年度は関西の阪急文化財団池田文庫、大阪府立中之島図書館等で閲覧・調査を行い、幕末・明治期の上方歌舞伎の作品研究を進めた。具体的な成果としては、『日本文学』第62巻第10号に論文「明治初期大阪劇壇における「東京風」」を発表した。これは、上記の調査の成果等を反映し、明治期の大阪劇壇と東京劇壇の影響関係について論じたものである。また、『明治大学・ウィーン大学第11回共同シンポジウム論文集 カタストローフェ・都市・文化』(平成26年3月)所収の「幕末・明治の芝居と災害」も、幕末・明治期を対象とし、江戸・東京のみならず上方の上演作品にまで目を向けて、災害を扱った作品の演出の変遷を辿った。 一方、幕末・明治期の江戸・東京劇壇を代表する作者である河竹黙阿弥の作品に関しても、作品論(「黙阿弥「東京日新聞」考――鳥越甚内と景清――」、『国語と国文学』第90巻第2号)を発表した。上方劇壇と江戸・東京劇壇双方の上演作品の横断的な研究は、歌舞伎史の研究に資するところが大きいと自負している。
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