研究課題
平成26年度は、以前から取り組んできた持続血糖測定装置を用いた100kmウルトラマラソン中の血糖測定実験の結果がようやく雑誌にアクセプトされた年であった。ケーススタディではあるが、貴重な測定結果を論文としてまとめることができ、この結果が実際のウルトラマラソンでのエネルギー補給の参考になればと思っている。また、論文としてまとめるにはデータ数や測定条件が十分ではなく、貴重なデータを活かしきれていなかったフルマラソン中の血糖変動のデータは、雑誌の特集としてまとめることができ、特集を読んだ研究者から反響があったことは、これまで取り組んできた実験の意義が評価されたと考えている。また、所属している運動栄養学研究室で数年前から運動強度や対象者を厳密に規定し、1日のエネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスを保つことによって、「等しい運動量でも、運動を実施するタイミングによって1日の脂質酸化量が異なる」という結果が得られた。先行研究では運動強度を変えても、実施するタイミングが異なっても、体型が異なっても、年齢が異なってもエネルギーバランスが保たれていれば24時間の脂質酸化量に差は認められない、つまり運動が24時間の脂質代謝に与える影響はほとんどないと報告されている。しかし我々が着目した、長距離ランナーが日々トレーニングとして実施している“朝食前”という長時間絶食後に運動を行うことによって、同じ運動量でも脂質酸化量を大きく増やすことができる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
睡眠に異常のない健常男性を対象に、就寝直前に青色光暴露もしくは真っ暗な中で2時間過ごすことにより、直後の睡眠構築にどのような影響を及ぼすのか、また翌日午前中の覚醒水準やエネルギー代謝にどのような影響を与えるのかを検討した結果、R&Kによるレム睡眠、ステージ3/4の深睡眠といった睡眠構築、また周波数解析によるデルタ波やシータ波などの各周波数のパワーには両試行間で有意な差は認められなかったものの、翌日午前中の朝食後の食事誘発性熱産生が青色光暴露試行では低下し、覚醒水準も低下するという結果が得られた。我々は、日常生活を送る中で気づかないうちにテレビやパソコン、携帯電話などさまざまな青色光に暴露されており、今回のようなかなり弱い青色光でも翌日の生体データに影響を及ぼしていることから十分気をつける必要があるということが示唆されたため。
ヒトの睡眠時エネルギー代謝に時計遺伝子発現の振幅や位相も関係していることは明らかである。そのため、非侵襲的に採取可能な唾液を用い、唾液中の時計遺伝子発現を測定し、エネルギー代謝に関係する生理学的パラメータの時系列解析の一つに加えようと考えている。実際に唾液から時計遺伝子発現を測定している研究所に連絡を取り見学させていただき、また分子生物学の実験に詳しい医学部所属の専門家の指導を受けながら唾液からRNAを抽出し、遺伝子発現を測定する実験系を確立させているところである。抽出したRNAがインタクトか否かは、専用の分析器であるバイオアナライザを用いて評価し、分析手法を工夫することによってインタクトなRNAの抽出が行えるようになってきた。また、抽出したRNAはリアルタイムPCRを用いて発現量を定量し、先行研究で報告されているような時計遺伝子には日内変動のリズムがあることまで確認済みである。今後の方針としては、唾液から抽出したRNAの妥当性を検証するため、同時刻に採取した血液からRNAを抽出し、同様の測定結果が得られるのかを確認しようと考えているところである。
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