研究課題
平成27年度は、以前から取り組んできたヒトの主要なエネルギー消費量の一つである「食事誘発性熱産生」の算出方法に関する論文がようやく雑誌にアクセプトされた年であった。従来までの算出方法では、絶食時のエネルギー消費量と比較する必要があったり、細かな身体活動量を考慮しない推定方法で食事誘発性熱産生の算出が行われていたが、今回通常の日常生活を送る中で、積分した身体活動量とエネルギー消費量の相関を求めて食事誘発性熱産生を算出する方法を新しく提案した。また、毎日の走行距離を周波数解析することにより、極端な食事制限を行った雌ラットの性周期に乱れが生じることを報告し、過度のトレーニングを行うことによって女性アスリートの選手生命に大きな影響を及ぼす3つの兆候(摂食障害、運動性無月経、骨粗鬆症)につながる動物モデルとして報告した。また、所属している運動栄養学研究室で数年前から運動強度や対象者を厳密に規定し、1日のエネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスを保つことによって、「等しい運動量でも、運動を実施するタイミングによって1日の脂質酸化量が異なる」という結果が得られた。我々が着目した、長距離ランナーが日々トレーニングとして実施している“朝食前”という長時間絶食後に運動を行うことによって、同じ運動量でも脂質酸化量を大きく増やすことができる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒトの睡眠時エネルギー代謝に、日中の身体活動だけでなく栄養素を含めたエネルギー摂取量、そして深部体温や時計遺伝子発現の振幅や位相も関係していることは明らかである。そのため、非侵襲的に採取可能な唾液を用い、唾液中の時計遺伝子発現を測定し、エネルギー代謝に関係する生理学的パラメータの時系列解析の一つに加えようと考え、唾液からRNAを抽出し、遺伝子発現を測定する実験系を確立させた。今年度は実際に日長が安定している4月~10月までの間に3名の被験者を対象として測定を行った。来年度はさらに被験者数を増やして測定を行う予定である。また、唾液から抽出したRNAの妥当性を検証するため、現在唾液と同時刻に血液を採取し、血液中のRNAの動きと同じなのか否かを検討している。抽出したRNAがインタクトか否かは、専用の分析装置であるバイオアナライザを用いて評価し、唾液の採取方法を工夫することによってインタクトなRNAの抽出が行えるようになった。また、抽出したRNAはリアルタイムPCRを用いて発現量を定量し、先行研究で報告されているような時計遺伝子には日内変動のリズムがあることを確認した。また、睡眠中の脳波解析については、従来から行ってきた周波数解析に加えて、R&Kで判定されるレムとノンレムという睡眠段階に分けて解析し、累積して評価する方法を習得した。この方法を用いることにより、睡眠寝具の違いによる睡眠構造の違いや、睡眠時無呼吸症候群の治療として用いられるマウスピースの有り無しでの睡眠構造の違いについて、今まで以上に細かく解析できる可能性が示唆された。さらに、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の先生方ともコンタクトをとるようになり、以前と比べて医学的な立場、さらに動物実験を行っている立場からさまざまなアドバイスをもらって研究を遂行できる環境になってきた。
今後の方針としては、血液(白血球)から抽出したRNAが、顆粒球由来なのかリンパ球由来なのかといった白血球のポピュレーションを検討するとともに、被験者を追加して国内外の学会発表を行うと同時に、投稿論文を作成する予定である。また、睡眠中の脳波解析について、睡眠構造ごとに分類して累積パワーについて比較する方法を検討中である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 7件) 図書 (1件)
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