本研究の目的は、1) 日本国内の言語的マイノリティの子どもの二言語の読書力の発達過程を縦断調査により明らかにし、教育の指針となる「読書力発達段階参照枠」を記述すること、2)「二言語での対話型段階的読み学習」を教育現場との協働で実践し、「読書力発達段階参照枠」に応じた具体的な指導方法を提唱することであった。 目的1.に関しては、これまでに収集した外国ルーツ児童生徒及び日本語母語児童生徒計428名の音声録音データを文字化・分析し、その結果をもとに、読書力発達段階参照枠の妥当性を検証し、国内外の学会等で公表した。 目的2.に関して、これまでに引き続き、大阪府下のS小学校において、母語教育カリキュラムの作成とその実践(全ての中国語ルーツの児童対象)、また、日本語の対話型段階的読み学習の実践(全ての中国語ルーツの児童及び、日本語母語児童4年生を対象)をおこなった。母語教育は、アイデンティティの確立とリテラシーの基礎を身につけることを目的に、運用面を重視したプロジェクト型のカリキュラムであり、対話型段階的読み学習は、個々の本読みの目標冊数を決め、レベルに応じた本を継続して読む中で総合的な読書力を身につけるという取り組みである。今年度終了時の3月に、この3年に渡り、上記の実践を特に力を入れて行ってきた5年生の中国ルーツの児童8名を対象に、二言語読書力評価を実施した。その結果、すべての児童が二言語ともに読み書きの力が伸びているという結果が得られた。また、インタビューから、8名全員、中国・中国語に対する肯定感が育っており、ルーツに対してネガティブな感情を持つ児童が一人もいないことが確認された。さらに、日本語及び教科学習に対しても、全員が肯定的に捉えており、教科学習の基礎となる読み書きの力が、二言語で培われている様子が確認できた。
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