研究課題/領域番号 |
13J40054
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 今日子 北海道大学, 低温科学研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 微惑星 / 蒸発 / 凝縮 / 衝撃波 / 氷 / 原始惑星系円盤 |
研究実績の概要 |
太陽系初期に頻繁に発生する衝撃波による微惑星への影響と微惑星表面から蒸発した水蒸気の凝縮によるダスト生成過程について調べる。また核生成の素過程について明らかにするため、分子動力学計算も行った。26年度の成果は以下の3点である。 1.核生成率の新しいスケーリングの関係の導出 (Tanaka et al.2014). これまで我々は超並列計算機を用いて80億分子の希ガスの分子動力学計算を行い,室内実験条件と同様の条件で核生成過程を再現することに成功した。そこで得られたクラスター分布からクラスター形成のための自由エネルギーを算出しクラスターサイズ依存性を求めた。驚くべきことに、我々の結果は臨界核の表面エネルギーとして得られるバルクの表面エネルギーと曲率のみに依存する簡単な関係式が、わずか数分子のクラスターまで成り立っていることを示し、任意の過飽和状態で使える核生成率および核生成のスケーリングの関係を導いた。 2.沸騰の核生成 (Deimand et al.2014, Angelil et al. 2014). 液体からの気泡の核形成過程について希ガスの分子動力学計算を用いて再現し初めて直接的に核生成率を測定することに成功した。微小な泡の表面張力はバルクと異なり、サイズと温度依存性があることが示された。この結果は上の1で述べた気相からの核生成過程の研究結果と整合的である。本成果はPhys. Rev. Eに掲載され、Editors' Suggestion に選出された。 3.木星形成後の微惑星衝撃波加熱によるコンドリュール形成 (Nagasawa et al. 2014). 木星形成後の円盤内の微惑星の軌道進化計算をもとに、ダストや微惑星への影響について検討した。この加熱機構により、木星形成後に小惑星帯でコンドリュールが自然に形成されうることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
凝縮の素過程の解明のため、分子動力学計算を用いて気相及び液相からの核生成の素過程を詳細に調べ、それらの結果を3つの論文にまとめることができた。特筆すべき成果として、希ガスに対する核生成のスケーリングの関係を発見した点と、液体からの気泡の核形成過程について大規模分子動力学計算を用いて再現することにより初めて直接的に核生成率を導出することを実現した点がある。スケーリングの関係に関する成果はJ.Chem.Phys.に掲載された。気泡の核生成の成果はPhys. Rev. Eに掲載されEditors' Suggestion に選出された。また木星形成後の円盤内の微惑星の軌道進化計算をもとに、ダストや微惑星への影響について検討した。その結果、原始惑星系内において木星との共鳴に伴い発生する強い衝撃波による加熱により、隕石内のコンドリュール形成や彗星内の結晶質シリケイトが説明できることを示した。この結果はThe Astrophysical Journal Lettersに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの我々の研究により、原始惑星系円盤内において巨大惑星が形成されると、共鳴により強い微惑星衝撃波が発生し、ダストや微惑星を強く加熱することが分かった。今後は巨大惑星形成後の円盤内の微惑星の軌道進化を考慮し、ダストと微惑星への衝撃波による影響について詳しく検討する。氷微惑星は激しく蒸発し、蒸発した水蒸気は冷却し凝縮により氷ダストになる。またこの際には強いガス流により微惑星表面の微小ダストは円盤ガス内に放出される。微小ダストが存在する中で、水蒸気がどのように凝縮するの詳しく検討する。この際、水蒸気からの核生成の大規模分子動力学計算も行う。特に核生成率を決定する微小クラスターの表面エネルギーを評価する。新しく得られた表面エネルギーを用いて微惑星表面から放出された水蒸気の凝縮過程を明らかにする。また原始惑星系円盤における氷ダストや微惑星から放出される分子の観測可能性についても検討を行う。
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