原始惑星系円盤において頻繁に発生する微惑星衝撃波は太陽系初期の物質進化を考える上で重要なプロセスである。本研究では微惑星衝撃波による微惑星の加熱、蒸発、再凝縮について記述する理論モデルの構築、およびそれを用いた微惑星衝撃波による物質進化の解明を目指した。平成27年度は主に凝縮の素過程の解明に向けて、核生成の分子動力学計算と微惑星蒸発後の氷ダストの生成過程について調べた。飽和した蒸気から液滴が生まれる際の凝縮核生成は,最初にできる凝縮核がナノサイズより小さいため,その生成率を精度よく予言する一般的な理論はまだ存在しない。本研究では400万水分子を用いた大規模かつ長時間の分子動力学計算を行い,水蒸気からの均質凝縮核生成過程を調べた。その結果,従来計算の10万分の1という低い核生成率で進行する現象を再現し,室内実験で得られている核生成率と同レベルに到達することに成功した。さらに,温度と圧力の2つに依存する凝縮核生成率が,それらの組み合わせである1つの量のみに依存する簡単なスケーリング則を発見した。このスケーリング則は,温度で約200度,核生成率では30桁にわたる広い範囲に対し,分子動力学計算と室内実験の両方のほとんどの結果をよく再現する。また表面張力のサイズ効果を明らかにするために希ガスを用いて液相からの気泡生成の大規模分子動力学計算を行った。得られた気泡の表面張力のサイズ効果は液体粒子の表面張力のサイズ効果と同様であることが分かった。分子動力学計算により得られた新しい核生成モデルを氷微惑星蒸発後の水蒸気の再凝縮過程に適用した結果、ナノメートルサイズの超微小氷ダストが原始惑星系円盤に大量に放出されることが明らかになった。
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