母性ゲノムによる調節から胚性ゲノムによる調節への移行過程において、zygotic genome activation(ZGA)は重要なイベントの一つであるが、未だに不明な点が多い。 我々のこれまでの研究から、ホヤ胚では8細胞期から16細胞期にかけて、Gata.a、 Zic-r.a、β-catenin、Tcf7の4つの母性因子が、胚性遺伝子発現を直接開始する事がわかっている。このホヤ胚のZGAにおいて、動物半球での発現は、Gata.aにより8細胞期から徐々に開始され、16細胞期から強く活性化される。これに対し、植物半球での発現は、β-catenin/Tcf7により16細胞期以降に活性化される。4細胞期までは、胚性遺伝子発現はほぼ検出されない。これらの結果から、ホヤの胚性遺伝子発現の開始には、3回の細胞分裂が必要であると考えられる。 次に、cdc25の機能阻害により、細胞周期を遅らせた胚での胚性遺伝子発現の開始を調べた。その結果、β-catenin/Tcf7により、通常16細胞期以降にしか活性化されない植物半球での発現が、コントロール胚が16細胞期になるのと同じ時間(約130分)が経過していれば、まだ8細胞期(細胞分裂3回後)のcdc25機能阻害胚でも検出されるようになることがわかった。植物半球での発現には、通常16細胞期に植物半球の割球のみで起こるβ-cateninの核内への移行により生じるβ-catenin/Tcf7が必要である。従って、植物半球での発現開始に必要となる受精後の一定の経過時間(約130分)は、β-cateninが核内へ移行するために必要な時間であると考えられる。 これらの結果から、ホヤ胚では、細胞分裂の回数と受精後の経過時間という、2つの異なる時計が、ZGAの開始を決めていることが明らかになった。
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