平成27年度は,タイ王国チャオプラヤデルタ東北部の農村を対象に,農業水利の社会ネットワークを構築し,日本との比較を行った。その結果,日本でもデルタ農村でも,灌漑管理の基礎的単位は集落であるという共通性がある一方,デルタ農村では日本に比べて出入作が多く,圃場条件等を考慮してもなお,隣接圃場の耕作者によって結ばれる関係性の指標(密度,推移性,相互性)の値が低く,緩い紐帯であることが視覚的・定量的に明らかになった。 続いて同デルタ農村における灌漑管理について,コメ担保融資制度下の高米価かつ乾季の水不足という条件のもとで見られた以下の3つの集合行為(①幹線から支線水路へ配水する仮設ポンプ燃料代の共同負担,②末端水路の浚渫作業費用の共同負担,③県・郡が労賃を負担する集落単位の水路の草刈作業)の参加率を出入作率の高さとの関係から整理し,入作者は集合行為への参加率が低くフリーライドしている可能性が示唆された。 一方,灌漑水の利用可能性・作付意思決定に関する情報源の観点では,出入作率が高い農家は,近隣農家からの情報等のローカルな情報へのアクセスが相対的に少ないなど制限があることが示唆された。上記の出入作率の高さと農業水利のネットワークが粗であるという性質は,チャオプラヤデルタ農村における参加型灌漑管理において日本の経験を教訓とする際の留意点であると考えられる。加えて,RPD復帰前から継続して研究してきた日本における用水ブロック単位の灌漑水の従量料金制と節水行動について,モンスーン・アジアへの適用可能性を考慮して検討た結果,大規模耕作者の水管理労働費用の高さが本制度の活用のボトルネックである可能性が示唆された。 本研究は平成25年7月から開始された。現在は,最後の課題である中国における農業水利のネットワーク構造の解析を行っており,3年が経過する6月をめどに成果を発表する予定である。
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