本研究では、モデルマウスを用いて、ヒトメラノーマの発症や進行に関わる可能性の高い遺伝子の選別とその機能解析を進めることで、メラノーマ発症のメカニズムの解析を行うことを目的としている。さらに、メラノーマモデルマウスを用いて、将来ヒトメラノーマ治療の開発につながる治療法の開発を目指す。まず本研究では、P遺伝子を第一の候補遺伝子として研究を進めている。 結果(1); P遺伝子を過剰発現させるために、P遺伝子の過剰発現ベクターの作製を行った。メラノーマ培養細胞でこのベクターを過剰発現させ、ウェスタンブロット法を用いて確認を行ったところ、P遺伝子の過剰発現が認められ、P遺伝子の発現ベクターの作製に成功したことが確認された。 結果(2); P遺伝子の発現を恒常的に抑制したメラノーマ培養細胞株における、発癌関連遺伝子のシグナルについて、ウェスタンブロット法を用いて解析を行ったところ、細胞移動、転移の促進に関わるチロシンキナーゼタンパク質の中に、P遺伝子の発現を恒常的に抑制することで、活性が抑制されるタンパク質が存在することが分かった。また、細胞増殖抑制因子の中に、P遺伝子の発現を恒常的に抑制することで発現量が増加するタンパク質が存在することも分かった。 結果(3); ヌードマウスの尾静脈にP遺伝子の発現量の高いメラノーマ細胞株と、P遺伝子の発現を恒常的に抑制したメラノーマ培養細胞株を注射することで、in vivoにおけるP遺伝子の浸潤・転移能の解析を行ったところ、P遺伝子の発現量の低いメラノーマ細胞株を移植したマウスにおいて、顕著な肺転移抑制が観察された。このことから、P遺伝子は、メラノーマの浸潤・転移を促進する可能性が示唆された。 以上の結果より、P遺伝子は、メラノーマの増殖、浸潤の促進に関与している可能性が強く示唆され、分子標的治療法の有力な候補遺伝子となることが期待できた。
|