研究課題/領域番号 |
13J40097
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石谷 閑 九州大学, 生体防御医学研究所, 特別研究員(RPD)
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キーワード | Wntシグナル / 大腸がん / Homeodomain-interacting protein kinase 2 (Hipk2) / Nemo-like Kinase (NLK) / 化合物スクリーニング |
研究概要 |
Wnt/βカテニンシグナル(以下Wntシグナルと略)は、幹・前駆細胞の未分化性の維持や分化誘導を制御するシグナル伝達経路である。消化器官では、その構築だけでなく恒常性維持の過程においても幹細胞・前駆細胞の増殖・分化が活発に起きており、Wntシグナルが生涯を通じて動的かつ多様な機能を果たしている。そこで本研究では消化器官に特に注目して、Wntシグナルの活性制御機構の分子基盤の解明を目指す。本年度は、まず、九州大学病院の大腸がん患者から採取したサンプルを解析し、大腸がんにおいて発現が大きく変化する因子としてタンパク質リン酸化酵素Hipk2を見出した。続いて、ヒト細胞株を用いた解析を行い、Hipk2が特定の種類の大腸がん細胞株においてはWntシグナルを正に制御し、一方で、その他の種類の大腸がん細胞株ではWntシグナルを負に制御することを見出した。さらにヒト細胞株、およびゼブラフィッシュを用いた解析を行い、Hipk2がDvlタンパク質(Wntシグナルの主要因子)の安定性を制御することでWntシグナルを正に制御することを発見した(論文投稿中)。一方、負の制御機構にっいては現在解析中である。このようにヒト大腸がんサンプルを起点とした研究により、新たなWntシグナル制御機構を見出しつつある。加えて、既知のWntシグナル制御因子であるNLKの活性制御化合物の探索も開始した。現時点で、大規模スクリーニング実験系の構築と、それを用いた代表化合物ライブラリーに対する一次スクリーニングを完了し、複数の候補化合物を得た。NL, Kを特異的に制御する化合物を用いた研究が、Wntシグナル制御機構のより深い理解とWntシグナルに関連する疾患の治療につながることを期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト大腸がんサンプルの解析により、大腸がんにおいて発現が変化する因子を同定し、さらにこの因子が新規のメカニズムを介してWntシグナルを制御することを見出した。さらに、NLKの活性制御化合物の探索も順調に進捗しており、現在までに複数の候補化合物を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、Hipk2の解析を行う。特に、未解明課題である、「Hipk2によるWntシグナル抑制の分子機構」、「Hipk2によるWntシグナル制御と大腸がん発生・悪性化の関係」について重点的に解析を行う。また、本年度見出したNLKの活性制御候補化合物群に対しては、種々のカウンターアッセイによる絞り込みや構造の最適化を行うことで、NLKに特異的に作用する化合物を開発する。また、ヒト消化器官由来細胞株とゼブラフィッシュの双方を用いて、消化器官の構築・維持における新たなWntシグナル制御機構の探索・解析を行う。本年度までにWntシグナルを制御する新規因子を複数見出しているので、特にこれらに注目して解析を進める。
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