研究課題/領域番号 |
13J40097
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石谷 閑 九州大学, 生体防御医学研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Wntシグナル / 大腸がん / HIPK2 / NLK / 化合物スクリーニング |
研究実績の概要 |
Wntシグナルは、多種多様な機能を果たすシグナル伝達経路である。例えば、Wntシグナルは、幹細胞・前駆細胞の増殖をコントロールし、これにより脳や肺、肝臓、腎臓など様々な臓器のサイズを制御する。また、Wntシグナルは幹細胞・前駆細胞の“未分化性の維持“と“分化誘導”の双方に必須の役割を果たす。しかしながら、Wntシグナルの多機能性を支える分子基盤の実体はほとんど未解明である。本研究では、Wntシグナル制御因子である二つのタンパク質リン酸化酵素、HIPK2とNLKに特に注目して、「消化器官の構築と維持の過程におけるWntシグナル活性制御の分子基盤の解明」を目指している。本年度はまず、ヒト細胞株を用いた生化学的解析によりタンパク質リン酸化酵素HIPK2と脱リン酸化酵素PP1cを介した新規のWntシグナル制御機構を見いだし、その成果をCell Reports誌に第二著者として発表した。また、熱ショックプロモーター依存的にNLKを過剰発現するゼブラフィッシュ系統を作製しこれを用いることで、NLKを過剰発現した腸組織では、正常な腸組織に比べてWntシグナルと細胞増殖の亢進が起き、一方で、enterocyteなどの分化細胞の数が減少することを見出した。これらの結果は、NLKが腸においてWntシグナルの促進を介して細胞増殖を正に制御し、細胞分化を負に制することを示唆する。さらに、昨年度開始したNLKの活性制御化合物の探索も継続して行い、現在までに、16000種の代表化合物群から、in vitroにおいてNLKの活性を低濃度で特異的に制御する化合物を複数得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、HIPK2によるWntシグナル促進機構の詳細を生化学的解析により突き止め、この成果をCell Reports誌に第二著者として発表した。また、NLKについては、NLKを時期部位特異的に過剰発現する新規のゼブラフィッシュ系統の作製に成功し、これを用いることで、腸におけるNLKのWntシグナル制御を介した新規細胞運命決定機構を見いだした。加えて、TALEN法によるNLK遺伝子を破壊したゼブラフィッシュ系統の作出やGal4-UASシステムによりNLKを組織特異的に発現するゼブラフィッシュ系統の作出にも成功した。 さらに、Wntシグナル異常に起因する疾患の治療への貢献が期待できる「NLKの活性制御化合物の探索」も並行して行い、16000化合物の中から、低濃度でNLKの活性を特異的に抑制する化合物を9つ得た。 上記のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに作出に成功した各種NLK機能改変個体を用いて、ゼブラフィッシュ個体におけるNLKの機能解析を進める。また、光に応答して活性化してNLKあるいはHIPK2の発現を抑制するアンチセンスオリゴを準備したので、ゼブラフィッシュ個体においてこれらを用いて時期組織特異的なNLK、HIPK2の機能解析も行う。培養細胞の解析で得られた成果や、消化器疾患の疫学的解析の結果と照らし合わせながら、消化器官におけるNLK、HIPK2によるWntシグナル制御とその意義を分子・細胞レベルで明らかにして行く。消化器官の専門家とのディスカッションを頻繁に行い、研究の深度・精度を上げて行くとともに、早期に論文発表できるよう努める。 NLKの活性制御化合物については、ここまでのスクリーニングで得た候補化合物を起点に、「生体内でWntシグナルの活性を制御でき、Wntシグナル関連疾患の治療に寄与しうる化合物」を創っていきたい。これにあたっては、有機合成や薬学、医学の専門家との意見交換を行い、その研究を加速させていきたい。
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