研究概要 |
本研究の目的は, 語彙判断課題においてL2-L1対訳語プライミング効果が表記の異なるバイリンガルでも観察されるか, また観察された場合のその理論的意味を現行のバイリンガル語彙表象モデルと照らし合わせ解釈するものであった. 今年度はまず, 最新の知見を理解するために過去20年間に発表された関連論文の収集, 精読を行い, 使用された刺激の語彙特性, 被験者のL2能力, 観察されたプライミン効果の量を把握し, 実験間の比較を行った。その後この効果の有無を日英バイリンガルを被験者とし実験検証した。 実験1 : 英語力の高い(平均TOEICスコア860)日英バイリンガル36名を対象に, L2-L1対訳語プライミング効果を検証し, L2対訳語によるL1語ターゲットへの有意な促進効果を観察した。 実験2 : 実験1より更に英語力の高い(平均TOEICスコア920)日英バイリンガル34名を対象に, 別の刺激セットを用いてL2-L1対訳語プライミング効果を検証した. 実験1と同様, 有意な促進効果を観察した。 〈実験3〉英語力の低い(平均TOEICスコア710)日英バイリンガル34名を対象に, 実験1と同一刺激を用いてL2-L1対訳語プライミングを検証した。このバイリンガルグループからは有意な促進効果は観察されなかった。 本年度の研究により, 表記の異なるバイリンガルでもL2-L1対訳語プライミングが観察されることが初めて示され, またその効果の有無がバイリンガルの英語力に影響を受けることを示した。事後の分析によりこの効果は, バイリンガルが英語を学習しはじめた年齢(L2AoA)には影響されないことも示した. 実験結果とその理論的意味, また現行モデルとの関連性について論じた論文を執筆し国際誌に投稿した.
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