研究課題
(1)特定のイベントで形成されたことが明らかな現世タービダイト泥の陸源有機炭素率の層位変化パターンについて,1年度目に得られた研究成果を2014年4月に横浜で開催された日本地球惑星科学連合大会および2014年8月にスイス・ジュネーブで開催された国際堆積学会議にて発表した.海底地震による堆積物の例として,2011年東北地方太平洋沖地震による三陸沖の津波堆積物の有機炭素分析を追加で実施し,上記発表内容に追加分析の結果を加え,論文の投稿を準備中である.(2)熊野トラフおよび南海トラフ陸側斜面において採取された数千年前までの堆積物を対象に,軟X線写真撮影を行い,その後同試料を分割し粒度分析および安定炭素同位体比分析を行なった.南海トラフ陸側斜面から採取された2004年紀伊半島南東沖地震によると見られる堆積物は,陸源有機炭素率の層位変化パターンから地震による斜面崩壊起源と考えられた. 一方,熊野トラフから採取された数千年前までの堆積物では,斜面崩壊起源のほかに洪水によると考えられる層位変化パターンを示す層準が認められ,同一地点における異なる起源の堆積物が有機炭素分析によって区別される可能性が示された.(3)これまでに得られた堆積物中の有機炭素を用いた高精度年代測定結果について,年代校正プログラムを利用して解析を実施し,複数の解析モデルの中から対象試料に適したモデルを検討した.軟X線写真およびX線CT画像に見られる層相変化,粒度分析・安定炭素同位体比分析結果と対比し,タービダイトがなく一見均質に見える堆積物のイベント層準を検討した.(4)日本列島周辺海域で行っている堆積有機物を用いたタービダイトの起源と堆積プロセスの解析方法をティレニア海の堆積物に適用するため,1年度目にイタリア・ローマ大学に滞在して採取した試料について,粒度分析および有機炭素量・安定炭素同位体比分析を行なった.
2: おおむね順調に進展している
1年度目には,特定のイベントで形成されたことが明らかな現世タービダイト泥の陸源有機炭素率の層位変化を検討し,洪水起源と海底地震による斜面崩壊起源の堆積物では,堆積プロセスを反映して異なる層位変化パターンを示すことを見いだした.2年度目は,この層位変化パターンとの比較にもとづいて,過去数年~数千年前の堆積物についても同様の手法で堆積物の解析を進めた.この結果,熊野トラフでは,同一地点においても異なる起源の堆積物が有機炭素分析によって区別される可能性が示された.同様の手法は,南海トラフ周辺だけではなく,1年度目に検討した別府湾やスマトラ沖堆積物に加えて,ティレニア海の堆積物にも適応可能なことが示された.また,堆積物中の有機炭素を用いた高精度年代測定により,一見半遠洋性泥が連続的に累重し均質に見える堆積物にも年代が古く見積もられる層準があり,これらがイベント層準である可能性を検討したことも,本年度の成果である.以上の理由により,本研究課題の研究目的は順調に達成されつつある.
(1)形成要因がわかっていない過去の堆積物について,南海トラフ周辺から採取された試料を対象に,引き続き2年度目と同様の解析を行う.特定のイベントで形成されたことが明らかな現世タービダイト泥の陸源有機炭素率の層位変化パターンと比較することにより,洪水と海底地震による斜面崩壊のどちらで堆積したのか,1枚1枚のタービダイトについて特定する.(2)有機炭素を用いた放射性炭素年代測定結果を用いて,見いだされたイベント層準の年代を決定するために,同じ堆積物の微量の浮遊性有孔虫による年代測定を実施し,有機炭素のレザバー効果を検討する.これにより,1枚1枚のイベント層準の形成年代すなわち災害の発生年代を検討する.(3)2年度目までに成果が得られた現世タービダイト泥の層位変化パターン,スマトラ沖および別府湾のタービダイトの起源と堆積プロセスについて論文を投稿する.
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