研究課題/領域番号 |
13J40187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 まさき 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ソヴィエト / 娯楽映画 / 古典 / 映像化 |
研究実績の概要 |
2015年に千葉県の幕張で開催される国際学会ICCEESでの報告をするための準備をすすめた。準備の過程で、モスクワ大学のM.シードロワ教授と連絡を取り合い、2つのパネルを組織した。 1つめのパネルは、“Texts of Russian Literature in Modern Russian Theater.(現代ロシア演劇におけるロシア文学のテクスト)”である。このパネルにおいてシードロワ教授は、ドストエフスキー原作の『カラマーゾフの兄弟』の現代における劇化について報告を行なう予定である。 2つめのパネルは、“The Translation of Literary Works: Texts Contrast with Visual Arts.(文学作品の「翻訳」:視覚芸術と対峙するテクスト)”である。このパネルでは、ロシアの古典文学のテクストを原作に持ちながら、他の芸術ジャンルで創作された作品の分析を通じて、原作テクストの持つ力がどのように維持されるか、またあるいは新たな発展を見せているかについて論じられる予定である。 アウトリーチ活動の一環として、沼野充義教授の授業「ロシア中東欧映画と文学(東京大学、2014年度夏学期)」の1回を担当し、G.アレクサンドロフ監督の『サーカス』(1936年)についてコメントした。 アレクサンドロフはスターリン期に活躍した娯楽映画の巨匠であり、妻であった女優L.オルローワとともに時代を代表する映画人である。プイリエフとはライバル関係にあり、ソ連文化研究の対象としては以前から、より広く扱われている。大学生向けの授業において、アレクサンドロフの『サーカス』を取り上げ、プイリエフとの対比を交えながら、映画を通じてソ連時代の社会と文化を紹介することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年8月のICCEES大会でのパネルおよび報告の準備を通じて、I.プイリエフの後期創作活動における、ドストエフスキー原作の文学作品の映画化の研究をすすめた。ロシア人研究者との議論を通じて、ドストエフスキーのテクストをプイリエフがどのように理解したか、映像化においてどのようなプイリエフの独自性が見られるか、という問題について考えを深めた。 また、アウトリーチ活動の一環として、東京大学の沼野充義教授の授業「ロシア中東欧映画と文学(2014年度夏学期)」において、G.アレクサンドロフ監督の『サーカス』(1936年)を担当し、コメントした。アレクサンドロフの『サーカス』を取り上げ、プイリエフとの対比を交えながら、映画を通じてソ連時代の社会と文化を紹介することが授業の主眼であったが、その準備過程で、プイリエフの『クバン・コサック』の作品分析について、有力な仮説にたどり着いた。 一つは、ロシアの映画研究者M.トゥーロフスカヤがいう、ソ連の娯楽映画における「労働と幸福が結びついている」というテーゼの深化である。プイリエフの作品世界では、単に労働と幸福が結びつくのではなく、まず主人公たちが労働を通じて自己実現を果たし、自己実現がかなうことによって幸福な状態にいたっていることを観察できるのである。 二つには、『クバン・コサック』と同時代の、やはり農村を舞台とする娯楽作品と比較したとき、上に述べた「自己実現」の現れ方において『クバン・コサック』の時空間は特異である。諸作品が自己実現の過程を描くことに物語の大半を費やすのに対し、『クバン・コサック』ではその過程はプロローグ的・象徴的に示されるのみであり、物語は自己実現の「後」の「幸福状態」に集中している。これらの発見により、『クバン・コサック』についての論考をさらに深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2015年8月に千葉市の幕張において開催される国際学会ICCEES第9回大会において報告を行なう予定である。モスクワ大学のM.シードロワ教授と連絡を取り合いながら準備をすすめた結果、すでに2つのパネルを組織し、それぞれのパネルで報告と司会を担当する予定である。 これらのパネルの組織にあたっては、I.プイリエフの後期の創作活動における、ドストエフスキー原作の文学作品の映画化の研究が出発点となっている。ドストエフスキーのテクストをプイリエフがどのように理解したか、映像化においてどのようなプイリエフの独自性が見られるか、という点が興味の中心である。また、舞台芸術におけるドストエフスキーの劇化を取り上げるシードロワ教授との議論を通じて、プイリエフの映像化の傾向をさらに特徴づける。さらに国際学会を契機として、古典的な文学作品を原作としつつ、他の芸術ジャンルで新しい創作を試みるとき、どのような可能性があるのかについて、より大きな観点から外国人研究者たちと議論をする予定である。 さらに、ロシアへの出張を行う。モスクワにあるRGALI(ロシア国立文学芸術アーカイヴ)にはプイリエフのフォンドが収蔵されているが、これまでに参照することができた資料はごく一部に過ぎない。研究資料をさらに補完すべく、新たな資料の発掘を目指して資料収集を行なう予定である。さらに、現地でのロシア人研究者との議論を通じて、これまでの研究で浮かび上がってきたプイリエフの世界観をより明らかにする。
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