研究課題
本研究はツキノワグマの人里への出没危険時期を予測し(第1部)、その結果を効果的に市民に普及するプログラムの開発を行うこと(第2部)を目的とする。野生動物問題の解決には多くの市民の野生動物に関する正しい知識が不可欠であるが、本研究は研究成果のアウトプットまでを含んだ計画を立て、クマ出没に対する有効な対策の提案や注意喚起を行うことをゴールとしている。1年目の本年度は第1部「出没時期予測のための情報収集と解析」を中心に実施した。具体的には、神奈川県をはじめとした都道府県等が収集するツキノワグマの出没情報の収集に加え、出没の増減と実際の野生個体の行動との関係を調べるための行動追跡調査を、北関東(足尾・日光山地)においてGPS首輪を用いて実施した。この結果、神奈川県内の出没情報数の増減パターンと北関東の野生個体の行動(日活動量)の増減パターンが一致する時期があることが分かった。行動パターンの変化は特定の個体のみに起こる訳ではなく、オス、メスを問わず共通して認められ、また、異なる地域間で野生個体の行動と出没数の間に共通する増減パターンが認められたことから、出没につながる行動変化が起こる時期は個体間および広い地域で同調している可能性が示唆された。これらの成果の一部について、国際誌および国際学会で発表したほか、市民向けの講演会や展示を行った。加えて、本研究成果の市民への普及にあたっては、行政の野生動物の管理施策の現状と課題を把握した上で効果的なプログラムを考案する必要があると考え、アンケート調査によって全国のクマ類の管理の現状と課題をまとめ、学会でのミニシンポジウムを実施した。
2: おおむね順調に進展している
一部で収集の遅れているデータがあるが、一方で当初の計画にはなかったが、全国のクマ類の管理施策の現状と課題についてレビューを実施し、総合的には順調と判断した。
ツキノワグマの行動は年毎の食物の状況で大きく変化することが分かっているため、複数年のデータを集めて予測の精度を挙げる必要がある。従って次年度以降も引き続き第1部の出没情報や野生個体の行動データを収集し、出没危険時期の予測精度を向上させ、その成果を用いて第2部の普及プログラムの開発も順次進める予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Journal of Mammalogy
巻: 94 ページ: 351-360
Mammalian Biology
巻: 78 ページ: 34-40