研究課題
本研究の目的は、移動と接触に注目しロシア帝国と仏教僧侶の関係を明らかにすることにある。当該年度ではまず、チベット仏教徒であり遊牧民だったカルムィク人の定住化プロセスの解明に取り組んだ。生業的基盤である牧畜の変化やそれに伴う定住化の問題は、僧侶が介在するカルムィク人社会の秩序の根底を揺るがすものだった。4月の国際ワークショップでは、カルムィク・ステップの地理的条件と定住化について論じた。さらにロシア帝国と前期ソ連の約300年にわたる彼らの定住化の歴史について、移動と環境の変化、貨幣経済の浸透と牧畜形態の変容、ソ連当局の畜産要請とカルムィク人側の意識のあいだの齟齬などのトピックに焦点を当てた論文をアフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明研究叢書に寄稿した。次いで、第5回スラブ・ユーラシア研究アジア・カンファレンスにおいてロシア帝国の秩序とイデオロギーに関するパネルを組織し、自身も「白いハーン」の称号と仏教イデオロギーに着目しロシア仏教皇帝像の誕生の経緯について口頭発表を行なった。さらに、スタヴロポリ、ロストフ・ナ・ダヌー、エリスタ、サンクトペテルブルグ、モスクワの5都市における資料調査を行ない、各地の研究者と非常に有意義な意見交換を行なうことができた。残念ながら、今回のスタヴロポリ州国立公文書館でのアーカイヴ史料調査では十分な調査時間を確保できなかったが、ノガイ人やトルクメン人らムスリムとカルムィク人仏教徒の相互作用、定住化したカルムィク人社会と仏教僧侶の関係の変容を研究する上で、今後の研究の可能性を期待させるものとなった。また、韓国モンゴル学会第34回国際会議に招待され、ロシア帝国における近代医学といわゆる伝統医学とのあいだの排除と包摂の関係を論じた。
(抄録なし)
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『中央ユーラシアにおける牧畜文明の変遷と社会主義』(大野旭編著)(アフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明研究叢書8)
ページ: 11-37
The NEP Era : Soviet Russia, 1921-1928
巻: 7 ページ: 33-35