研究概要 |
転写因子Mybは造血系細胞に特異的な遺伝子の転写誘導に関与している。多くの造血系特異的遺伝子の転写制御にはMybと共に、別の転写因子C/EBPβも同時に関与している。MybとC/EBPβはプロモーター上で相互作用し、共通の転写コアクティベーターCBPに同時に結合することによって、転写を協調的に誘導する。従って、造血系特異的遺伝子の転写誘導のメカニズムを理解する上で、MybとC/EBPβがプロモーター上で相互作用する分子メカニズムの解明は重要である。私達は造血系特異的遺伝子のプロモターDNAに結合したMybとC/EBPβの複合体の結晶構造を決定し、両者の相互作用のメカニズムを原子レベルで明らかにした(Cell,2002)。 またMybによる転写制御に関与する新規の転写メディエターを遺伝学的アプローチにより同定するための系をショウジョウバエを用いて作製した(EMBO J.,2002)。ショウジョウバエの成虫原基においてMybを過剰発現させると細胞周期の制御因子Cyclin Bの異所的な発現が誘導され、その結果として眼の形態異常が誘導された。この眼の形態異常を変化させる遺伝子変異をスクリーニングすることによって、種々のMyb制御因子の同定が可能である。 私達の最近の研究により、発がん遺伝子産物として見いだされていたSkiが転写コリプレッサーとして機能することが明らかになってきた。Skiがどのような生理機能を持つかを明らかにするため、Skiに結合する因子を探索し、転写因子Gli3を同定した。Gli3は発生の種々の時期で発現し、形態形成を制御するヘッジホグシグナル伝達経路において重要な役割を果たしている。一連の分子生物学的な解析及び変異マウスを用いた発生学的な解析により、SkiがGli3と共に形態形成の制御に関与することが示された(Genes & Dev.,2002)。
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