RNAポリメラーゼは染色体DNA上を滑り拡散しながらプロモーター配列と結合し、転写複合体を形成してから、DNAのらせんに沿ってRNAを合成するという一連のモーター運動を行なう。この運動は、染色体DNAの弾性変化および超らせん密度変化により、促進と阻害の制御を受けている可能性がある。このモデルの真偽を直視解明するために、DNA分子をチップ上で展延、配列、固定することで弾性と超らせん密度を操作できるゲノムマニピュレーション技術を開発した。染色体の長さに応じて2種類の手法を使い分けており、(1)半屈曲性のkbpサイズのDNAは、交流電界中、誘電泳動力(DEP)によって直線状に伸展して溝畦型構造体中に吊り下げる(ウナギ目打式)、(2)長さが巨大であるためDEPでは伸展が困難なMbpサイズのDNAは、直流電界中、電気浸透流(EOF)によってファイバー展開する(流しそうめん式)、ことが実現された。 つぎに、ウナギ目打式によるT7ファージ由来RNAポリメラーゼのモニター運動の1分子実時間観察と、流しそうめん式による分裂酵母由来染色体ファイバーの水溶液中における形状観察を行なった。酵母1細胞から直接染色体をEOFによって引き出したところ、DNAのファイバーは最長0.4mmまで伸長されたDNAファイバーに沿って毛糸状の物質が局在していることが可視化され、これは細胞中で合成されたRNAとその源であるプロモーター配列の分布を反映していることが示唆された。また、DEPで伸長固定したファージDNAを用いて転写アッセイを行なったところ、RNAポリメラーゼ分子のモーター運動は速度の異なる2つの運動成分から構成されていることを発見し、遅い成分はプロモーター配列からのプロセッシブなRNA合成(ケモメカニカル運動)、早い成分は転写不全が生じた配列からのRNA切断による遊離(ラチェット型ブラウン運動)であることを明らかにした。
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