これまでのニワトリを使った研究から、Tbx5遺伝子が左心室に、Tbx20遺伝子が右心室に明瞭な境界をもって発現していることが明らかとなった。また、この境界部に心室中隔が形成され、肺循環と体循環に二分されることも明らかとなり、Tbx5遺伝子を右心室側に強制発現させることによって心室中隔の右心室側への移動や、完全な心室中隔欠損を起こすこともわかった。これは、マウスでも同様であることtransgenic mouseを用いた解析から明らかとなった。ニワトリやマウスが2心房2心室であるのに対して、魚類(ゼブラフィッシュ)では1心房1心室である。この形態の相違とTbx5、Tbx20両遺伝子の発現パターンがどのように関連しているかを検討した結果、ゼブラフィッシュでは両遺伝子は明瞭な境界を作らず、Tbx5は心房心室境界を中心に、Tbx20はbulbus arteriosisを中心に相補的に発現していることも見いだされた。これは、進化の過程でTbx5、Tbx20遺伝子の発現の変化が心臓形態の差を生んできたことを物語っている。一方、Tbx5、Tbx20は鳥類、哺乳類では心房にも強く発現するのに対し、ゼブラフィッシュでは全く発現が認められなず、種間によってかなりの隔たりがあることも明確になった。おそらく、Tbx5、Tbx20遺伝子の発現調節部位の変化によってこのような発現パターンの相違が生まれると考えられる。これに対し、Tbx5の強制発現はTbx20を抑制し、Tbx20もTbx5を抑制することがわかり、両遺伝子の間には相互拮抗関係があり、これはゼブラフィッシュでもニワトリでも同様であった。このほか、Tbx5、Tbx20蛋白はその転写調節能において、GATA4との相互作用があることも見いだされた。このような結果は心臓形態の進化がTbx5、Tbx20発現調節領域の進化と深く連関していることを示唆しており、きわめて重要な知見となった。
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