ショウジョウバエの味覚受容に関わる遺伝子を網羅的に同定するために、Genechipを用いたスクリーニングを行った。味覚感覚器が機械感覚器に転換したpoxn突然変異体と野生型の味覚器官由来のtotal RNAからプローブを作製した。ショウジョウバエの全遺伝子を含むGenechipにプローブをハイブリダイズし、poxn突然変異体で野生型よりも発現量が有意に低下している遺伝子をスクリーニングした。その結果、野生型と比較して2371個の遺伝子がpox突然変異体で発現が低下していた。このうち、Gタンパク質共役型受容体が15個、チャンネルが24個、Gタンパク質が7個などが見つかった。これらの遺伝子の機能を同定するために、GAL4/UAS systemを用いて目的遺伝子のpromoter近傍ゲノム領域にP{GAL4}が挿入した系統を用いて遺伝子の発現場所を同定し、数個の遺伝子について詳細な解析を開始した。 多数のGal4系統とUAS-GFP系統を交配し、GFPの発現をもとに感覚子の基部の味細胞でGAL4が発現している系統をスクリーニングしNP1017系統を得た。anti-GFPを用いた抗体染色や、LSMの観察により、この系統では、感覚子基部の1個の味細胞でGAL4が発現していた。この味細胞の機能を調べるため、高温下でシナプス小胞のリサイクルが抑制されるshibire^<ts1>をGAL4発現細胞で発現させることができるUAS-shibire^<ts1>用いた吻伸展反射行動実験を行った。その結果、高温条件下で、糖や塩に対する応答は正常であったが水に対する応答が著しく低下した。水応答の異常は、K^+チャネルの遺伝子であるShakerの突然変異遺伝子を連結したUAS-EKO系統を用いた電気生理学的解析でも示された。NP1017系統を用い、水受容細胞から中枢への投射パターンを観察したところ、食道下神経節、胸部神経節において、水受容細胞はそれぞれ特定の領域に投射していることが明らかになった。本研究により、ショウジョウバエの水受容細胞を機能と関連づけて同定することができ、その中枢への投射を明らかにすることができた。
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