研究概要 |
染色体バンドと塩基配列を直接的に関係づけ、統合的に理解することは、ゲノム研究の重要な課題の一つである。昨年度までに、ヒト21番と11番染色体長腕の全域について、S期内の複製時期の測定を行い、詳細な複製時期地図を作成した(Hum Mol Genet,11,13-21,2002)。11番染色体については、draft配列を用いていたので、新規な配列を加えた再解析を行い、複製時期の転換部位のさらに詳細な特定を行った。複製時期の転換部位には癌関連遺伝子を含む病因遺伝子が集中する傾向を見い出していたが、この傾向はより明らかになった。マウスゲノムのdraft配列が発表になり、両ゲノムでのsyntenyの実体が判明してきた。ヒト21番と11番染色体について、マウスとのsyntenyを解析したところ、syntenyの切断部位が複製時期の転換部位の近傍に位置する例が多く見い出された。染色体転座の高頻度領域が、複製時期の転換部位に存在するとの前年度までの結果との関連が興味深い。広範囲の生物種を対象に複製時期地図を作成するためには、in silico法の可能性を検討することが重要である。ヒト染色体で蓄積したデータを基礎に、S期の前・後半期に複製する領域ならびに複製の転換領域の塩基配列上の特徴について、情報学的な抽出を試みた。前・後半期に複製する領域では、GC%に差異が存在することは明らかであるが、より複雑な構造が関与している可能性が高い。2〜4連続塩基の頻度に着目して、前・後半複製領域の特徴抽出することが有効に思える。連続塩基の頻度に着目した、ゲノム配列からの知識発見については、自己組織化地図法(SOM)を導入した。SOMは当初の予想を遥かに超えた解析能力を示しており、塩基配列が既知の全ゲノムを対象にした解析を行い、各ゲノム配列に潜む特徴をgenome signatureとして抽出が可能になった(Genome Research Vol.13 in press,2003)。複製時期との関係については、ヒト配列を対象にSOM解析を行っているが、chromosome signatureと呼べるような、染色体間での興味深い差異が明らかになっている。
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