DNAコンピュータはDNAの分子反応を利用して計算処理を行うコンピュータである。その超並列処理能力に加えて、DNAやRNA分子を入力データとして直接受理してその情報を処理できる特徴を利用すると、DNAコンピュータにより生体分子の多様な情報解析を正確かつ高速に行うことができる。我々はDNAコンピュータを用いて遺伝子の発現解析を行う方法を小規模な実験により世界ではじめて示し、従来のDNAチップやマイクロアレイを用いる方法と比較して、汎用性、定量性、演算性の点で優れていることを明らかにした。本研究では、その成果を踏まえて、DNAコンピュータにより大規模なSNP解析および遺伝子発現解析を行う方法の基盤を確立する。今年度は、まず、大規模な解析に必要とされる多数の正規直交配列の設計を行った。従来の方法を改良することにより、ハイブリダイゼーション反応において正規直交性が保たれる条件(融解温度幅2℃、ハミング距離8以上、最大連続一致長7以下)の下で、500個を超える正規直交配列を生成することに成功した。一部の配列について、実験により正規直交性を調べたところ、十分な正規直交性が確認された。500個の正規直交配列があると、たとえば、2桁のDNAコード化数を用いて、最大で約6万、最小でも約千個のSNPや標的遺伝子をエンコードして解析することができる。次に、これらの正規直交配列を用いて、ヒトの培養細胞の約百種類の遺伝子発現解析を行い、1本のチューブ内で同時に約4千種類の遺伝子の発現解析を行うことが基本的に可能であることを示した。最後に、同じ正規直交配列を用いて同一チューブ内で複数のSNPのタイピングを行い、遺伝子発現解析と同様に、並列で正確な解析を行うことができることを確認した。
|