本研究の目的は、DNAコンピュータを用いて大規模なSNPs解析や遺伝子発現解析を行う方法の基盤を確立することである。今年度はこの目的を達成するために、マルチプレックスのSNPsタイピングを行うためのエンコード反応の開発を行なった。SNPsのタイピングの場合、エンコード反応で一塩基ミスマッチを正確に識別することが必要である。そこでまず、変換テーブル分子を構成するアダプター分子の5'末端にSNP部位を設定した場合と3'末端に設定した場合とで一塩基ミスマッチの識別能力が異なるかどうかを検討した。ミスマッチの種類とエンコード反応の温度を変えながら系統的に調べた結果、アダプター分子の3'末端にSNP部位を設定した場合に高い識別力が得られることがわかった。最も識別が困難なG/Tミスマッチの場合、5'末端ではミスエンコードにより正確なタイピングを行うことができなかったが、3'末端ではミスエンコードされたシグナルは5%以下になりタイピングが可能であることがわかった。マルチプレックスのSNPsタイピングの場合、すべてのSNPs部位でエンコード反応は同じ温度で行われる。変換テーブル分子とSNPs部位を含むDNA断片とのハイブリッドのTmは完全に一致させることはできないので、ある程度広い温度範囲で一塩基ミスマッチの識別ができることが求められる。SNPs部位を3'末端に設定した場合、十分に広い温度範囲で識別ができることがわかった。これらの実験結果に基づいて、アレルギー疾患関連のSNPs部位を含むDNAを用いて、少なくとも10箇所のSNPs部位のマルチプレックスタイピングのエンコード反応が可能であることを確認した。エンコード反応の条件としては、100を越えるタイピングにも対応できる。
|