申請者の開発したNMRを用いた交差飽和法によるタンパク質複合体相互作用界面決定法は、複合体のNMRシグナルの観測を行うため、現実的な適用限界はタンパク質複合体の分子量が5万程度のものまでに限られていた。この場合、創薬のターゲットとなる可能性の高い膜タンパク質などの高分子量タンパク質複合体には適用が困難であった。そこで、その限界を打ち破るために、測定法の開発を行った。タンパク質複合体において、リガンドタンパク質を過剰量加えることにより、その分子について非結合状態と結合状態の交換系を作り出すことが可能となる。この交換が適当な頻度で起こっている場合、非結合状態の分子においても、結合状態で生じた交差飽和の影響を保持していると考えられる。よって、非結合状態由来のNMRシグナルを観測することにより、複合体そのもののNMRシグナルを観測せずに、複合体の相互作用界面に関する情報が得られると考えた(転移交差飽和法)。リガンド-タンパク質モル比、化学交換速度、溶媒の軽水/重水率、飽和方法・時間、等の探索を行なったところ、分子量164Kの複合体において界面の決定に成功した。
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