筋強直性ジストロフィー(DM)は、その遣伝子変異が3'側非翻訳領域にあるにもかかわらず優性遺伝の形式で発症する極めて珍しい遺伝病である。また、筋緊張など筋肉を中心とした主症状の他に、耐糖能障害、知能低下等の全身的な症状を併発する複合的疾患である。分子機構は責任遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTGトリプレット・リピートの伸長にあると言われているが、このリピートの生理的機能については不明な点が多い。このように従来の常識を覆す発症機構を持つ全身的複合疾患を詳細に研究するためには、遺伝子発現状況を網羅的に探索するゲノムレベルでの解析が有効な手段である。今回私は、マウス由来のDMモデル細胞を用い、DNAマイクロアレイ解析を行うことにより、CTGリピートの存在下で発現量に変化の見られる遺伝子を探索した。その結果、secretory carrier membrane protein 3とendosulfine alphaの発現量が変化していることが見出された。また、同時にNorthern解析を行ったところ、EXP、MBLLと呼ばれる分子の発現量が増加しているとの結果を得た。EXP、MBLLは伸長したCUGリピートRNAと結合する可能性を持ち、DM分子機構に大変重要な役割を果たすタンパク質である。一方、secretory carrier membrane protein 3とendosulfine alphaは糖尿病との関連が示唆されている分子であり、DMの耐糖脳障害に大きく関わる可能性を持つ。これらの結果は、これまで不明であった、DM患者で見られる遺伝子変異と実際の症状との間に存在する分子機構を説明する可能性を持ち、本研究がDM.発症機構の体系的な理解に大きく寄与していくことが期待される。
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