研究概要 |
生活習慣病の代表である2型糖尿病の病態は膵β細胞からのインスリン分泌不全および筋肉・脂肪・肝臓などの作用臓器におけるインスリン抵抗性に大別される。本研究の目的はインスリン分泌およびインスリン抵抗性に関与している遺伝子多型を明らかにし、2型糖尿病を発症しやすい個人を同定するための遺伝子レベルでの分子指標を解明し、多因子疾患としての2型糖尿病の新しい分類体系の確立を図ることである。 研究代表者らはhepatocyte nuclear factor(HNF)-1αおよびHNF-4αの遺伝子異常によりインスリン分泌不全型の家族性糖尿病が発症することを明らかにした。HNF-4α遺伝子のT130I多型について777名のケース・コントロール研究を行ったところ、HNF-4α遺伝子T130I多型は日本人2型糖尿病の発症感受性に関与していることが明らかになった(p=0.015,odds ratio 4.3,95% CI 1.24-14.98)。膵β細胞におけるHNF-4αの発現量は肝細胞における発現量の約10%であった。インスリン分泌におけるHNF-4αの意義を明らかにする目的で、膵β細胞特異的HNF-4αノックアウトマウスを作製したところ、同マウスは遺伝子異常を有する患者と同様に糖応答性インスリン分泌不全を示した。パッチクランプによる検討の結果、インスリン分泌不全はKATPチャンネルの活性異常が原因であると考えられた。HNF-1α異常による糖尿病発症の分子機構を解明するために膵β細胞におけるHNF-1αの標的遺伝子の検索を行ったところ、腎集合管特異的遺伝子としてクローニングされたコレクトリンが標的遺伝子であることが判明した。コレクトリンはインスリンの開口放出に重要なSNARE complexの形成を促進することでインスリン分泌を促進する作用を有していると考えられた。
|