動脈硬化や心筋梗塞の冠状動脈硬化巣の80%以上で検出される肺炎クラミジアの感染細胞では、動脈壁傷害の修復への関与が示唆される一群の細胞外マトリックスタンパクファミリー遺伝子の発現が感染後期に低下していたが、大動脈壁に由来するcDNAライブラリーと肺炎クラミジアの病原因子との間で、two-hybrid studyによる相互作用分子のヒトゲノム網羅的スクリーニングを実施したしたところ、肺炎クラミジアset遺伝子産物(一般にはクロマチン因子とされる遺伝子のホモローグ)がこれらマトリックスタンパクと相互作用することを見い出した。SETタンパクは菌体が宿主細胞外に放出された後でこれらマトリックスタンパクに結合し、平滑筋細胞表面のインテグリンと弾性繊維との結合を阻害することによって弾性板や平滑筋層などの動脈壁の構造を変容し、脆弱なものにしている可能性が考えられる。今後さらに肺炎クラミジアSETタンパクと動脈壁平滑筋細胞表面のインテグリンと弾性繊維との関係を詳しく解析することが必要である。一方、我々は日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業の成果として肺炎クラミジアの全ゲノム解析に続いて、肺炎クラミジアに最も近似したゲノムを持つにもかかわらず、全く異なる疾病を起こす(動脈硬化VS結膜炎)ネコクラミジア菌(C. felis)の全ゲノムDNA配列を決定し得たので(投稿中)、両菌の病原性の比較解析で、動脈硬化発生・病態の解明や感染排除という難解な問題を解明する手がかりをつかめることを目指している。
|