筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis以下ALS)は神経疾患のなかで最も過酷な疾患とされており、早期に病因の解明と有効な治療法の確立が求められている。1993年Cu/Zn supcroxidc dismutase(Cu/Zn SOD)遺伝子が一部の家族性ALSの原因遺伝子であることが発見されたが、Cu/Zn SODの異常がなぜ運動ニューロンに選択的な細胞死をもたらすかは依然として不明である。本研究ではALSの新しい動物モデルとして、1)わが国で報告された特異な臨床的特徴を持つH46Rと2)トランスジェニック(Tg)マウスが普及しているG93Aの2種類の変異を導入したTgラットの作製を行った。従来のマウスに比較してラットの脊髄および脊髄前角細胞は極めて大きく、Tgラットによる新しいALSモデルは病態のダイナミックな解析および将来的な遺伝子治療や神経幹細胞移植を含めた新しい治療法開発のために非常に有用と考えられる。 BrdU投与による検討の結果、本モデルの病態下では、脊髄前駆細胞の増殖が起こっていたが、その多くはグリア系細胞へ分化している可能性が示唆された。また、ダブルTgマウスの作製によりG93A変異Tgマウスに対する効果が報告された肝細胞増殖因子(HGF)の臨床応用の目的に、HGFリコンビナント蛋白の髄腔内持続投与をG93A変異Cu/Zn SOD-Tgラットの100日令から1ヶ月間行い、脊髄前角の運動神経細胞数を観察した。HGF投与群においてはコントロール投与群に比較して有意に運動神経細胞数が保たれていることが明らかとなり、このことはHGF投与量に依存的であった。HGF蛋白の髄腔内持続投与がALSに対する新しい治療法として有効である可能性が示された。
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