微小管関連蛋白は、神経系において微小管を安定化する蛋白で神経の形態形成に重要な役割を果たすと考えられている。その中でMAP2は樹状突起に存在し、樹状突起の形態形成に重要な役割を果たすと考えられている。我々はMAP2のノックアウトマウスを作製し、タウ、ひいてはアルツハイマー病との関連を調べるため、その細胞生物学、神経病理学的異常を解析した。 MAP2のノックアウトマウスでは、樹状突起内の微小管の本数が減少しており、MAP2が樹状突起内の微小管の安定化に関与していることが示唆された。また、樹状突起の長さも減少していた。MAP2はN末でPKA(Aキナーゼ)のregulatory subunitと結合するため、PKAの量が樹状突起において減少していると考えられたため、神経組織内での量、分布を調べたところ、海馬、大脳皮質等においてPKAが樹状突起から選択的に失われていることが明らかとなった。この結果は海馬、大脳皮質の培養細胞においても観察された。更に生化学的に定量したところ、微小管に結合するPKAの量がノックアウトマウスでは野生型の約5-10%にまで低下しており、神経細胞におけるPKAの全体量もノックアウトでは野生型の約半分まで減少していた。さらに、PKAの量の減少により、PKAの基質の1つである転写因子CREBのリン酸化に異常がおきていた。また、樹状突起の形態やPKAのシグナル伝達異常によると思われる長期記憶の異常も認められ、MAP2が単なる細胞骨格としてだけではなく、神経のシグナル伝達にも重要な役割を果たしていることが示唆された。同様の役割をタウが担っており、それがアルツハイマーの発症メカニズムに関わっている可能性もあるため、タウのノックアウトマウス等でも同様の解析を行うことを予定している。
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