研究概要 |
グルタミン酸は、ほ乳類の中枢神経系において興奮性神経伝達物質として重要なだけでなく、神経系の発生・分化にも関与するシグナル分子としての作用を持つと考えられている。また、神経系は他の臓器に比べエネルギー要求性が高く、神経回路網が正常に形成し作動するためには、神経活動の亢進した脳部位に選択的に代謝エネルギーを補充する必要がある。しかし、その分子メカニズムは不明な点が多かった。本年度は、脳が正常に形成され作動するために不可欠な、神経細胞へのエネルギー補給におけるグルタミン酸トランスポーターの役割を解析した。野生型で見られたひげ刺激による脳体性感覚野のグルコース取り込み増加が、GLAST欠損マウスで著しく低下していた。また、野生型由来培養アストロサイトで観察されるグルタミン刺激(神経活動の亢進に相当する)による、細胞内Naイオンの増加(グルタミン酸の取り込みによる)、glucoseの取り込み促進(血管からのエネルギー源であるグルコースの取り込みに相当)、lactateの放出促進(神経細胞のエネルギー基質であるlactateの補給に相当)が、GLAST欠損マウス由来のアストロサイトでは観察されなかった。神経活動の亢進→シナプス間隙のグルタミン酸濃度上昇→グリア型グルタミン酸トランスポーターによるグルタミン酸の再吸収の活性化(同時にNa+がグリア内へ流入)→グリアのNa-K ATPaseの活性化(グリア内でのエネルギー消費増大)→グリアによる毛細血管からのブドウ糖の取り込み増加→グリアの解糖系によるブドウ糖からlactateの生成(グリア内の消費したエネルギーの補充)→生成したlactateを神経細胞が取り込みエネルギーを補充、という経路が重要であることを、in vivo, in vitroで証明することに成功した。
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