神経細胞は軸索と樹状突起という異なる2種類の極性を持った突起を有し、樹状突起から信号を入力して軸索から信号を出力する。しかし、いかなる分子機構によって未成熟な突起が軸索あるいは樹状突起へと運命決定されるのかはほとんど理解されていなかった。我々はこれまでにRho-キナーゼの主要な脳内基質蛋白質であるCollapsin response mediator protein-2 (CRMP-2)が未成熟な突起から軸索への運命決定に必要かつ十分であり、CRMP-2が神経細胞の極性形成および維持に重要な役割を果たすことを明らかにしている。また、CRMP-2結合分子として微小管構成蛋白質であるチューブリンを同定し、CRMP-2がチューブリンのヘテロ2量体と複合体を形成し、微小管重合を促進して軸索の伸長や分枝を制御していることを明らかにした。 以上の状況を踏まえ、本研究において我々はRho-キナーゼによるCRMP-2の活性制御機構を検討し、Rho-キナーゼによりリン酸化されたCRMP-2はチューブリン2量体への結合能が低下することを見出した。また、最近CRMP-2結合蛋白質としてNumbを同定した。NumbはNotchシグナルの活性化を抑制する神経幹細胞の運命決定因子として知られており、AP-2を介してクラスリン依存性エンドサイトーシスに関与することも報告されている。我々は分化した海馬神経細胞において、CRMP-2がNumbを介して接着分子であるL1のエンドサイトーシスを調節し、軸索伸長を制御することを見出した。以上の結果より、CRMP-2は微小管だけでなくNumbを介して軸索の伸長を制御するものと考えられる。本年度の我々の成果は神経細胞の極性形成機構を理解する上で極めて重要である。従って本年度の研究計画はほぼ達成することができたと考えている。
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