神経細胞の発火パタンはその細胞の持つイオンチャネルによって決定される。チャネルの機能を決定する因子はチャネルの密度と性質であるが、神経細胞はどのようにこれらの因子を調節して正常な機能を実現しているのかは明らかになっていない。本研究では、脱分極で活性化されるA型K+チャネルの密度と性質が発達過程における調節機構を調べるために、パッチクランプ法と単一細胞RT-PCR法を用いて、発達過程における電流とチャネルのアルファサブユニツトの発現を、線条体コリン作動性介在ニューロンを用いて定量的に調べた。本研究代表者らのこれまでの研究によって、この細胞は強いA型電流を持っていることと、K+チャネルのアルファサブユニットをコードするKv4.2を発現していることが明らかになっている。本研究では、出生から生後57日齢の動物におけるA型電流と、Kv4.2mRNAの発現量を定量的に調べた。その結果、Kv4.2mRNAは生後発達において、指数関数的に増加し、約3週齢で一定のレベルに達することが分かった。一方、A型電流は生後発達においてその振幅は増加したが、電位依存性や時間依存性に顕著な変化が見られなかった。Kv4.2mRNAに比べて、A型電流の増加が緩やかであった。転写と翻訳の機構の上に、mRNAとチャネル蛋白の分解の機構も考慮に入れれば、高い相関係数でKv4.2mRNAとA型電流の発達を記述することができた。これは発達過程における対応したチャネルmRNAと電流の関係を定量的に記述した初めての例である。本研究の結果から、今後のチャネル密度制御に関する研究は転写と翻訳及びチャネル蛋白とチャネルmRNAのターンオーバーのレートを決定することと、それらのレートはどのような分子機構で決定されているのかを明らかにすることが重要であることが示された。本研究結果の一部はJ. Neurophysiol.で印刷中である。
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