小脳発生におけるIrx2遺伝子の機能を解析し、とくにFGF8/MAP kinaseのシグナル伝達系との機能的な関連を詳細に明らかにした。Irx2は小脳発生の原基となるrhombic lipにつよく発現し、FGF8はisthmusに発現してorganizer活性を発揮している。これまで研究から、Irx2単独では小脳発生を誘導できず、FGF8との共発現でほぼ完全な小脳を誘導できることがわかっている。また、Irx2のアミノ酸配列に複数のMAP kinaseによるリン酸化部位が見いだされ、Irx2とMAP kinaseの機能的な連関が推測された。 これを確かめるため、Irx2をいくつかのドメインに分割して解析した。この結果、C末端側につよい転写抑制活性が見いだされた。興味深いことに、この転写抑制能はMAP kinaseによるリン酸化によって消失した。また、N末端側はMAP kinase非存在下では転写活性に影響を持たないが、MAP kinaseによるリン酸化によって転写活性化能を獲得するのが見いだされた。したがって、Irx2全体としてMAP kinase非存在下では転写抑制、MAP kinaseによるリン酸化によって転写活性へとスイッチする。同時に、MAP kinaseによるリン酸化はN末端側には2カ所、C末端側1カ所存在し、それぞれを同定し、改変することによってdominant negativeになったり、constitutively activeに変化することも見いだした。 Irx2はrhombic lipに発現し、isthmusからのFGF8/MAP kinaseシグナルを受け取って小脳形成に運命づける因子であることがわかった。本研究で、脊椎動物の脳の分節化や転写因子としてのユニークさが理解でき、ヒトからハエまで保存されているIroquois型の転写因子のもつ普遍的な性質の一端が明らかとなった。
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