アルツハイマー病の確定診断に死後脳の病理学的所見が必要な現状において、体外からの老人斑の画像化は有効な診断法の確立に繋がると考えられる。そこで我々は、核医学的手法を用いた老人斑のインビボ画像化を目的として、老人斑アミロイドに選択的結合性を有する新規放射性薬剤の開発を計画した。本研究では、新たにベンゾフランおよびスチルベンを母体化合物として用い、数種の置換基を導入した放射性ヨウ素(I-125)標識化合物を設計、合成した。それぞれの標識化合物に関して、インビトロ結合実験によるAβ凝集体との親和性および正常マウスにおける体内放射能動態の検討から老人斑アミロイド画像化薬剤としての有用性の基礎的評価を行った。種々の置換基を導入したベンゾフラン誘導体およびスチルベン誘導体は、Aβ(1-40)凝集体を用いたインビトロ結合実験の検討より、置換基の種類・導入位置に関わらず、Aβ(1-40)凝集体に高い結合親和性を示した。さらに正常マウスにおける体内放射能動態を検討したところ、いずれのベンゾフラン誘導体も投与初期に化合物の脂溶性に伴う高い脳移行性を示した。しかし、すべての化合物において脳からの放射能消失の遅延が観察された。一方、スチルベン誘導体である[I-125]IDSは、上記ベンゾフラン誘導体と同様、脳移行後に放射能消失の遅延を示したのに対して、水酸基を導入した[I-125]IHDSは、[I-125]IDSに比べ、速やかな放射能消失を示した。 以上より、ベンゾフラン誘導体およびスチルベン誘導体はAβ凝集体への高い親和性と脳への高い移行性を示したことから、その分子骨格が老人斑アミロイド画像化薬剤の開発に有用であることが示された。また、これら化合物への適切な分子修飾により、脳移行後に観察される非特異的放射能滞留は解消され得ることが示された。
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