研究概要 |
立体視に関する多くの心理物理学的研究はヒトの三次元知覚における種々の手がかりの役割,すなわち,視差手がかりや線遠近法,肌理の勾配,陰影といった単眼性の絵画的手がかりの重要性を詳しく解析している.しかし,心理物理学的研究では実際の脳内メカニズムを明らかにすることはできない.これまでの研究で我々は面の傾きを識別するニューロンを詳細に調べることでこの点を明らかにしてきた.面の傾きをコードする視差手がかりには,面全体に分布する「視差の勾配」手がかり,あるいは輪郭部分に生じる「幅視差」「方位視差」などがある.我々の研究で,面方位識別ニューロンはこの種々の両眼視差手がかりを組み合わせて面の傾きをコードすることが明らかになった.さらに,絵画的な手がかりについて調べたところ面方位識別ニューロンは線遠近法手がかりに反応はするが,はそれほど強く反応しないこともわかった.このことは我々の実際の知覚において線遠近法の手がかりが,かなりあいまいな手がかりであることと一致している.一方,絵画的手がかりでも肌理の勾配はGibsonが指摘したように面の傾き手がかりとしてきわめて重要である.今年度の研究では,CIP領域の面方位選択性ニューロンの肌理の勾配に対する反応性を調べ,サルの頭頂間溝後方部(CIP領域)にある面方位識別ニューロンにおいて,絵画的手がかりである,肌理の勾配が重要な手がかりであることを明らかにした.また,肌理の模様を変えても反応が変化しないことからCIP領域に肌理の勾配による普遍的な面方位識別の神経メカニズムがあることが示唆された.また,サルにランダムドットステレオグラムと肌理の勾配で表現された面の傾きのマッチング課題をおこなわせて,サルがヒトと同様に肌理の勾配から面の傾きを識別する能力があることを明らかにした.
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