2光子ケイジドグルタミン酸を用いて、大脳海馬錐体細胞樹状突起スパインの機能検索を進めた。昨年度までの研究で、シナプス伝達に重要なAMPA受容体はスパイン頭部形態によって決まり、頭部の大きいスパインほど発現が多いことがわかっていた。本年度は、可塑性誘発にもっとも重要なNMDA受容体の機能的分布を調べた結果、AMPA受容体の場合とは大幅に異なり、スパインの頭部形態にほとんど依存しないことが明らかとなった。従って、AMPA受容体の発現が弱く、NMDA受容体の発現の強い細いスパインは可塑性の好発部位と考えられた。そこで、デュアルスキャン2光子励起顕微鏡を構築して、2光子励起によるグルタミン酸の局所的反復投与と、2光子励起観察によるスパインの形態可塑性の誘発を調べた。この結果、無Mg溶液中で1Hzの反復刺激を1分間行うと、ほとんどのスパインで数分でピークに達し、10分程度で減衰する、やや隣のスパインまで広がるスパインの膨張がおきることがわかった。この反応は、NMDARの阻害剤APVやアクチンの重合阻害剤LatrunculinAで完全に阻害された。およそ半分のシナプスでは、これに引き続いて、長期間に渉る、スパイン頭部の形態増加が観察された。この増大は反復刺激したスパインに特異的であった。この様に、スパインの形態可塑性がシナプス後部樹状突起へのグルタミン酸投与で誘発されること、そして、それがスパイン特異的に起きることが明らかとなった。
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