研究概要 |
今年度は、(1)末梢神経無髄C線維を上行する信号の脳内認知(Tran, Kakigi et al., Qiu, Kakigi et al.)、(2)睡眠中の痛覚認知の変化(Wang, Kakigi et al.)、(3)Aδ線維を選択的に刺激する針刺激による痛覚認知機構の研究(Inui, Kakigi et al.)、の3点を中心に研究を行なった。 (1)はいわゆるsecond painに関連するものである。新しい刺激方法を開発して脳波および脳磁図を記録した。その結果、先ず刺激対側の第1次感覚野(S1)と第2次感覚野(SII)、次いで対側のSII、さらに両側の島、帯状回と扁桃体が活動する事がわかった。両側の島、帯状回と扁桃体の活動は注意の有無によって大きく影響を受け、痛覚から注意をそらしている時には活動が有意に低下し自覚的痛覚程度も低下することが明らかになった。 (2)では睡眠中には痛覚認知はどのように変化するかを触覚刺激(電気刺激)と比較して検索した。すると、触覚刺激ではSIは有意な変化は示さずSIIは有意に活動が低下した。痛覚刺激では、SI、SII、島、帯状回と扁桃体のいずれも睡眠中には有意に振幅が低下し、特に島、帯状回と扁桃体では著明であった。この結果は大脳辺縁系が痛覚の高次知覚に大きく関与している事を示している。 (3)では私達の研究所で作成した非常に短い針電極(上皮部分に挿入)を用いて、Aδ線維を選択的に刺激して痛覚認知を検討した。するとAδ線維刺激時にもC線維とほぼ同様の脳内認知機構を示す事が明らかになった。この方法は簡便、安価でかつ侵襲がほとんどないため、臨床応用に適した方法であり、現在臨床応用を行なっているところである。
|