分子動力学計算やモンテカルロ法は、タンパク質の構造と機能の解析/予測のための手法として期待されているが、その膨大な計算量が実用化の障害となっている。本研究の目的は、分子動力学計算向けの強大な計算資源を有する計算サイトを構築し、その計算パワーを遠隔地のタンパク質科学者に提供するような、計算資源提供型のGRIDシステムのプロトタイプを製作することである。本年度は、そのような計算資源の実体である専用計算クラスタを開発し、また、Globus ToolkitとNinf-Gを利用して、遠隔計算のための予備実験をおこなった。 分子動力学計算のボトルネックは二体相互作用求値にあるが、そのための高速アルゴリズムと専用計算ボードを併用するような計算ユニットのクラスタにより、専用計算サイトのプロトタイプを構築した。計算クラスタは単体で、通常の高速PCの16〜23倍の性能を達成した(計算ボード3枚装着の場合)。このユニット4台から成るクラスタをLAMを用いて構築したが、5万原子程度のタンパク質-水系に対して、精密なMD1ステップを1.6秒で実行できた(各ユニットには2枚の計算ボードを装着)。 GRID化の試みとして、予備実験的な計算サイトを構築した。Ninf-Gを利用して、「相互作用提供型」システムを構築した結果、5万原子5ピコ秒のシミュレーションを遠隔地からおよそ17000秒で実行できた。オンサイト計算に比べ、4倍程度に延長したが、通常のPCに比べ数倍以上高速であった。また、Globus I/Oを利用する「単一MD提供型」コンポーネントを開発した。この場合は、前述のシミュレーションを4010秒で実行でき、遠隔計算によるオーバーヘッドはわずか5%であった。
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