当初の研究実施計画に基づいて、次の3点について研究した。(1)ネットワーク移動性をもつソフトウェアコンポーネントの設計と実装を行うとともに、(2)各種コンポーネント結合関係の実装及び結合関係による分散処理記述環境の開発、(3)この複合ドキュメントフレームワークの実際的な応用事例を提供した。まず、(1)では前年度に実装したプロトタイプシステムと研究代表者が過去に設計・実装した階層型モバイルエージェントシステム(Mobile Spaces)を拡張することにより実現した。なお、この実装ではJava言語を用い、各コンポーネントはJava言語によりプログラミングされた能動的な計算実体となると同時に、OSやハードウェアが相違していてもコンピュータ間を移動できることが確認された。また、後述のようにコンポーネント結合のうち、含有関係はこのモバイルエージェントシステムがもつモバイルエージェントの階層化機構を利用した。(2)ではコンポーネント含有関係を基礎として、これ以外の結合関係はその結合関係を内包するコンポーネント間に実現する特別なコンポーネントとして設計した。例えば含有関係は階層機構をそのまま利用することとし、集約関係は0個以上のコンポーネントを含有可能なコンポーネントを動的に生成することにより実現する。また、参照関係は複製と転送機構を利用してWWWにおけるリンクと同様に相違なコンピュータ中に格納されているコンポーネントの表示・編集を実現できるようにした。(3)は応用事例として、ワークフロー管理システムを念頭に文書自体の移動による協調支援システムを設計・実装して、このフレームワークの有効性を検証した。ここでは特にワークフロー制御部分とコンテンツ部分を明確に分ける手法を提案し、再利用性を高めて開発効率を低減した。特に前者の部分に関してはワークフロー制御専用言語を設計し、多様なワークフローを容易に定義できるようにするとともに、そのプロトタイプシステムを実現した。
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