インフルエンザウイルスは8種類8本に分節されたRNAゲノムを、球形、フィラメント状、あるいはいびつな形をしたウイルス粒子内に保持する。インフルエンザウイルスの完全な増殖に於いては8種類のRNA分節のすべてが必要不可欠である。これら8種類のRNA分節がウイルス粒子に取り込まれるメカニズムにはこれまで二つの仮説が提唱されていた。一つはランダムパッケージングであり、もう一つはセレクティブパッケージングである。前者の説ではインフルエンザウイルス粒子が形成される際、任意のRNA分節が8本またはそれ以上粒子内に取り込まれるが、後者では各々のRNA分節が特異的なシグナルを持ち、8種類8本のRNA分節が特異的に粒子内に取り込まれる。我々は昨年までに、NA RNA分節とHA RNA分節とが効率良く粒子に取り込まれるには各々の蛋白質コード領域、すなわち各々の特異的なRNA配列領域(パッケージング・シグナル)が必要であることを明らかにした。そして、このパッケージング・シグナルを添加することで外来遺伝子を効率良くウイルス粒子に取り込むことを可能にした。 本年度は、NS RNA分節についてウイルス粒子内への取込みに重要なRNA領域について調べた。NA RNA分節とHA RNA分節のパッケージング・シグナルを調べた時と同様に、GFP遺伝子の両端に様々な長さのNSコード領域と非コード領域を添加したキメラNS RNA分節を作成した。これらのキメラNS RNA分節を持つウイルスをリバース・ジェネティクス法により作出し、キメラNS RNA分節がウイルス粒子内に取り込まれる割合を調べた。その結果、NS RNA分節がウイルス粒子内へ効率良く取り込まれるためにはウイルスRNAの3'側と5'側の両方の翻訳領域が必要であるが、特に3'側コード領域始めの30塩基が重要な役割をしていることが明らかになった。この成績は昨年度までに我々の各分節固有のパッケージング・シグナルの存在説を支持する。 さらに電子顕微鏡を用いてウイルス粒子内をつぶさに観察したところ、インフルエンザウイルス粒子内には8本の長さの異なる物質が存在することが分かった。この結果はRNA分節がウイルス粒子内に取り込まれる際には8種類8本のRNA分節を選択するメカニズム存在することを示している。
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