研究概要 |
平成14年度は、年度内に作製したHuman 22,000 & HCMV 179遺伝子アレイを用いて、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染後のヒト正常線維芽細胞(HF)・IMR32・Saos2・SW982・Y79細胞の遺伝子発現プロファイルを取得した。HFとIMR32はウイルス遺伝子に関してきわめて似た発現パタンを示した。しかし、HFで感染初期に激しく起きるIFN反応性遺伝子群の発現がIMR32では検出不能だった。また、SW982ではウイルス遺伝子の発現変化をほとんど検出できなかったにもかかわらず、IFN反応性遺伝子群の発現上昇を弱いながら検出した。さらに、Saos2では、感染初期に発現するHCMV遺伝子およびIFN反応性遺伝子群の発現上昇を検出できず、感染後期にHCMVの遺伝子の発現レベル上昇を確認した。Y79では、感染初期にウイルス遺伝子のわずかな発現レベル上昇を捉えたものの、宿主遺伝子の大きな発現レベル変化を見いだせなかった。 培養細胞系においてHCMV許容性を示すのは、正常細胞であるHFとごく少数の細胞株に限られている。IMR32はこの限られたHCMV許容細胞株の一つで、少なくともウイルス遺伝子に関してはHF同様の発現パタンを示すことが明らかとなり、これまでの知見を裏付けた。しかし、宿主遺伝子の発現パタンはHFとIMR32で大きく異なっており、これらの違いがウイルス産生効率などの両者で異なる性質を決定している可能性がある。HCMV許容性が報告されていない3細胞株において、それぞれが異なる宿主遺伝子発現プロファイルを示した事から、これらの細胞株では非許容の程度が同じではなく、ウイルスの増殖サイクルの異なる段階で阻害がおきていることが考えられる。
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