マラリア原虫には、植物のプラスチドと類似のアピコプラストがある。マラリアゲノム中に植物Fdとその還元酵素であるFNRと相同な遺伝子があり、アピコプラストは光合成に依存しない還元力の供給系として、植物の非光合成プラスチドと類似したNADPH→FNR→Fdの電子の流れをもつはずである。組換え蛋白質の発現手法でマラリアFdとFNRを調製し、電子伝達活性及び特異抗体によるマラリア原虫細胞中での存在を確認した。結晶化と構造解析がFdについては完了、FNRについては進行しつつある。マラリアFdの主鎖構造は、トウモロコシの根Fdと類似性が非常に高いことが判明した。また、マラリアFdとFNRとの間には、強い分子間相互作用があることも判明した。これらの結果は、原虫細胞でこのレドックスカスケードが機能していることを示唆しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能をもつと考えられる。そこで、この複合体から効率良く電子を受容し、しかもラジカル種のような細胞毒性を発揮できる薬剤をスクリーニングできれば、新たな抗マラリア薬の開発につながるのではないかとの着想に至った。大腸菌をモデル細胞として用いて、マラリアFdとFNRの遺伝子を導入し、菌体外に加えた酸化還元剤に対する増殖感受性を測定する系を構築した。Fd遺伝子、FNR遺伝子を各々単独に発現する株と共発現する株を作製し、酸化還元剤を含むプレートに播種し大腸菌の生育の阻害を調べた。その結果ビオローゲン系の薬剤が生育阻害に有効であることが判明した。この薬剤の効果は熱帯熱マラリア原虫のヒト赤血球の培養系でも有効であった。これらの結果は、NADPH/FNR/Fdのレドックスカスケードが、抗マラリア戦略の標的になることを示すものである。
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