研究概要 |
我々の開発した新規中員環過酸化物1,2,6,7-Tetraoxaspiro[7.11]nonadecane(N-89)は高い抗マラリア活性ならびに低い毒性の両方を兼ね備えた基本骨格と評価されている。しかしながら、もっとも有効な静脈注射で投与するためには、水溶性の機能を付与することが不可欠である。そこで、環状過酸化物N-89を基本骨格とし、その高い活性に影響を及ぼさない位置に水溶性官能基を導入することを試みた。具体的には、N-89の4-位がペルオキシ酸素から離れた位置にあることから、この位置へ置換基を導入することが有効と考えた。実際、6-ヒドロキシヘキシル基で置換された化合物N-251を合成したところ、そのマラリア活性はin vitroおよびin vivoの両方で、N-89に匹敵することが明らかとなった。次いで、N-251あるいはその類縁化合物を出発物質として様々なモノカルボン酸を合成したが、これらカルボン酸は重曹水への溶解度が悪く、またivでの投与は有効ではなかった。その原因として、これら一連のカルボン酸がミセルを形成しやすいことに起因すると考えている。そこで、ミセル形成をせず、また5%重曹水への溶解度の高い候補化合物として、ジカルボン酸N-313を設計・合成した。この化合物はin vitroでキニーネと同程度の活性を示した。そこで静脈注射での効果を確かめたところ、中程度の活性しか示さなかった(ED50=50mg/kg)。しかしながら、これは、日本で開発された薬剤候補としては、iv投与が可能なことを示す最初の例となっている。
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