研究概要 |
本研究の目的は、病原性と細胞傷害性に関わるプロモーター部位を解析し、センダイウイルスベクターの改良に応用することである。 マウスから分離したばかりの野外株を鶏卵で継代することで生じるプロモーター変異(U20A,U24A)は、いくつかの卵継代株すべてに見られるので、鶏卵馴化に伴う宿主依存的な変異であると考えられた。これらの変異をもつウイルスを人工的に作製してマウスでの感染実験を行い、変異が肺内増殖とウイルス病原性に影響を与えることを明らかにした。 持続感染細胞から分離した持続感染ウイルス3株のプロモーターに共通に見られる2個の塩基置換(A34G,G47A)を同定した。これらの変異をもつウイルスを作製したところ、細胞傷害性が若干低下しており、プロモーターが細胞傷害性に部分的に関与していた。しかし、このリーダー変異ウイルスは即座に持続感染を成立させることはできず、これには他の因子が重要であると考えられた。 また、持続感染ウイルスには同時に感染した野生株の増殖を強く抑制する性質があり、持続感染の成立過程に、この"干渉(interference)"が重要であると考えられている。本研究では、まず、研究室株のZ株・名古屋株が新鮮分離株の浜松株に強く干渉することを明らかにした。このことは、干渉が必ずしも持続感染ウイルスだけの性状ではないことを示す。この時、浜松株のリーダーに上記のU20A,U24A変異を導入すると、干渉を受けなくなった。また、A34G,G47A変異を導入すると干渉能がさらに亢進した。 以上の現象から、リーダー配列部分に結合する宿主因子が想定できる。また、センダイウイルスベクターのリーダー配列に、本研究で同定した変異を導入することで、低細胞傷害性で、かつ導入後に野生型変異ウイルス出現の抑制効果をもつベクターが作製できると考える。
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