研究概要 |
マウス脳で継代された生物学的個性(発症までの潜伏期、症状、病理変化)の異なる3プリオン株(Fukuoka-1,22L, Chandler)を2種の培養細胞株(1C11,GT1-7)に感染・増殖させ、培養細胞中でも株の個性が維持されるか否かを、ddyマウス脳に感染細胞抽出液を接種することにより検討した。その結果、潜伏期、症状、病理変化の全ての指標で株の生物学的個性は培養細胞中でも維持され、株の個性は宿主因子ではなく病原体に規定されることが明らかとなった。培養細胞感染のプリオン感染モデルとしての有用性がさらに明確となったといえる。一方、電気泳動上の移動度や糖鎖付加パターンを指標とした蓄積PrP^<Sc>の立体構造は、同一プリオン株であっても感染脳組織と培養細胞中では異なり、宿主因子に大きく影響されることが示唆された。即ち、株の特性を規定するPrP^<Sc>の立体構造以外の因子の存在が示唆され、感染因子プリオンがPrP^<Sc>分子のみによって構成されるとする「プリオン仮説」では説明し難い結果となった。 また、我々が樹立した感染細胞では、培養上清中にあきらかに感染因子が存在する。種々の限外ろ過膜を用いた培養上清濃縮実験では、100KDa以上の分画に感染性が濃縮された。また超遠心分離法を用いた検討では100,000xgにて感染因子を沈殿させ得ることがわかった。ddYマウスを用いて感染価を求めると少なくとも10^5LD_<50>/mlの感染価が上清中に存在していることがわかった。
|