研究概要 |
エイズワクチンの開発において、従来のワクチンの基本概念に基づくワクチンの開発が、必ずも成功に至っていない。エイズワクチン開発の困難さが改めて再認識されている。申請者等は本来のワクチンの基本概念から逸脱し、HIV-1ウイルスを中和するワクチンではなく、HIV-1の侵入を防止し生体の守りを固める手段を自己抗体に求めHIV-1コレセプター(CXCR4,CCR5)に注目した。このレセプターの全一次構造から立体構造を推定し、第2細胞外ループ(ECL-2)の細胞外第1残基から11残基目のシステイン残基は第1細胞外ループのCys残基とジスルフィド結合を介して小ループ(undecapeptidyl arch, UPA)を形成していることに着目した。このUPAのCys残基を除き、Gly-Aspのスペーサーアームジペプチドを挿入して各々を環状にした。このジペプチドのGly残基により、本環状に自由度を持たせ、ASP残基のβ-カルボキシル基を介してキャリアー担体に結合させ、コレセプターの固有のUPA構造をミミックした。また、両UPA由来のアミノ酸配列SQKEG (CCR5)5残基にEADDR(CXCR4)5残基を結合させ、SerとArgの間に、Gly-ASPのスペーサーアームジペプチドを挿入して、CCR5およびCXCR4由来の環状キメラUPA抗原を作製した。マウスを用いて、これら3種の抗原に対する単クローン抗体を別々に作出し、これらはそれぞれ、in vitroで、抗CCR5環状UPL抗体はHIV-1 R5の、抗CXCR4環状UPL抗体はX4の、抗CCR5/CXCR4環状キメラUPL抗体はR5,X4,X4/R5ウイルスの感染をほぼ完全に阻止した。さらに、よりヒトに近縁な霊長類であり、AIDSの動物モデルとして用いられるカニクイサルにおけるcDDR5-MAPの抗体誘導活性を検討した。その結果、カニクイサルにおいてもcDR5-MAP抗原はCCR5のUPAを認識する特殊抗体を誘導することが認められ、免疫カニクイサル血清中のIg fractionが、HIV-1R5ウイルスに対し感染防止効果を示すことが明らかになった。cDDR5-MAP抗原は、HIV-1の感染を防止するワクチンとして有用であると考えられる。本環状ペプチドはHIV-1初感染防止ワクチン、また、改変されるヒト型抗体はエイズ患者の進行に応じたオーダメイドの抗体として期待され、本研究は従来の治療薬・ワクチンの概念・考えを超越したHIV-1研究のブレイクスルーとなりうる。上記研究成果の一部はJ.Virol.75:11614(2001)に掲載され、高い評価を受けている。
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