HIV-1の増殖を制御する宿主免疫応答を細胞および個体レベルで解明してゆくことはエイズ制御を達成する上で重要である.我々は、エイズの個体モデルとして正常ヒト末梢血単核球(PBMC)を移植したスキッドマウス(hu-PBL-SCID-spl)のHIV-1感染実験系を立ち上げた.目的は、HIV-1の増殖を正あるいは負に制御する宿主因子を解明し、新たな抗HIV-1感染免疫戦略展開のための基盤を確立することである。新たなhu-PBL-SCID作製法として従来の1/3〜1/6量のPBMC(300万個)をSCIDマウス脾臓内に直接接種する方法を開発した(hu-PBL-SCID-spl)。この方法を用いるとT細胞の生着はマウス脾臓に限局することからマウス肝臓でのGVHDが回避され、腹腔から感染させたR5 HIV-1を増殖させることができた。さらにhu-PBL-SCID-splマウスでは、脾臓内に限局したヒトPBMCの生着が観察され、樹状細胞(DC)を用いることにより外来抗原に対するヒト型の免疫応答を誘導することができた。重要な発見は、不活化HIV-1粒子でパルスした成熟DCで免疫したhu-PBL-SCID-splは、R5 HIV感染に抵抗性を示したことである。このようなマウスにおけるHIV-1感染防御誘導は世界でも初めての観察である。マウス血清には、R5 HIV-1の標的細胞に働いてR5 HIV-1感染を抑制する可溶性因子が存在した。この因子は、betaケモカインとは異なっていた。マウスから得られた人CD4+Tリンパ球を抗原とAPCで刺激したところ同様な因子が産生された。その因子は免疫学的に他のHIV-1抑制因子とは異なり、分子量は100kDa以上のフラクションに存在した。現在、因子の生化学的解析のため因子産生CD4+T細胞の大量培養法を進めている。
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